過疎だからこそ楽しみが必要だ。小学校跡ではじめる遊びと集いの場づくり
仲塔地区のご紹介
5つの集落から構成されている仲塔地区の人口は約90名です。椎葉村の北側に位置しており、ひむか神話街道を北上して国見トンネルを抜けると五ヶ瀬町につながります。
街道沿いに面した仲塔渓谷では秋になると美しい紅葉が見られ、村外からも多くの観光客が訪れます。
また、旧仲塔小学校跡地を利用して建てられた簡易宿泊所「仲塔渓谷の館」は、近くの渓流で釣りや川遊びを楽しむ家族連れが気軽に泊まれる場所として、また運動場や体育館を利用したスポーツ合宿設備としても使える施設として運営されています。
いくつになっても楽しんで、挑戦したい
まずは、仲塔みらい会議で話し合われたプロジェクトの内容をご紹介します。
今回仲塔地区についてお話を伺ったのは、黒木芳弘さんと、那須安雄さんのお二人です。
芳弘さんは、仲塔地区公民館長を10年間務めた前任者。「仲塔渓谷の館」の建設に深く携わってきた一人で、運営委員会の代表も務めています。
芳弘さん:「当時仲塔小学校が閉校になって、跡地をどう利用するか数年間に渡って話し合いました。住民へのヒアリングや会議を重ねて、各地への視察もたくさん行きました。そして、村の教育委員会などとも相談した結果、簡易宿泊施設の機能を持つ『仲塔渓谷の館』の建設に至りました」
仲塔小学校は子どもたちの元気な声が聞こえる大切な場所として住民生活の中にあり続けてきましたが、平成14年に休校し、その後平成24年に閉校を迎えました。
閉校してからもその場所が地区の中心としての役割を担うため、生まれ変わった形が「誰でも遊びに来て、誰でも宿泊もできる」という、地区内外から人が集うような場所でした。
また、芳弘さんは長年農協に勤めていた頃の経験から、この広い椎葉村の様々な地区を回る中で気がついたことがあったそう。
芳弘さん:「椎葉村内の隅から隅まで知る中で、他の地区に『ここはいいなあ』と思う場所がたくさんありました。そんなふうに、仲塔にもあまり知られていない魅力的な場所がまだまだある。そういった地区の良さをアピールしながら、渓谷の館の利用も促していきたいです」
今回のみらい会議で集まった地区の方々が現状の課題と解決策を考える中で、多く聞こえてきたのは「高齢化で人が少なくなってきているから」ということ。これは椎葉村に限らず、過疎地全体が抱えている共通の問題でもあります。
芳弘さん:「動ける若い者の数が少なくなっていて心配な面もありますが、80歳、90歳になっても地区の活動に出てきて楽しんでほしい。そういう交流を通して地区の人に話題や活気が生まれたり、新しいものを知ったり、挑戦したりするきっかけになればと思っています」
先の不安はあるけれど、今いる人たちが楽しんで暮らすことが、まず第一。そのために「今」を皆で盛り上げていこうという思いを感じました。
生まれ育った地を、訪れる人に楽しんで欲しい
現在の公民館長を務める安雄さんは、仲塔地区で生まれ育ち、林業や椎茸栽培などの農業を中心にずっとこの地で働いてきました。
ちなみに仲塔小学校の閉校前、一番最後の生徒は安雄さんの娘さんだったそう。そんなエピソードも相まって、小学校から生まれ変わった施設への思いは人一倍なのかもしれません。
安雄さん:「今はコロナ禍で集客が難しいけれど、その中でも来てくれたご家族や子どもたちは楽しそうに満喫してくれた様子でとても嬉しかった。季節によって変わる仲塔の山や渓谷を楽しんで帰ってもらいたいです」
仲塔を訪れる人を増やしたい。もっと知ってもらいたい。
その思いが起点となって、地区の魅力を伝える名所マップや看板づくりに加え、情報を外へ向けて発信する宣伝活動についても検討しています。
安雄さん:「今は運営委員会を中心に、地区の皆がボランティアのような形で助け合って施設の運営をしているのが現状です。将来的にはお客さんが年間を通してきてくれるような工夫をしていって、収益を皆に分配できるようになるといいですね」
自分の生まれ育った場所に誇りを持って暮らす。
その良さを、たくさんの人に知ってもらいたいと願う。
そんなシンプルな思いを、どれだけの人が持てているのでしょうか。
なんだかとても羨ましいことにも思えます。
人を集めることで、地域も元気に。
施設の運営を通して進化をめざす仲塔地区を応援するように、これからもたくさんの人が訪れることを願っています。