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新しい「当たり前」をつくっていく。未来を変えるのは「今やらねば」という意志の力

2021年度、椎葉村は第6次長期総合計画を策定しています。
この記事では、椎葉村全10地区ごとに行った「地区みらい会議」で話し合われた地区独自のプロジェクトの内容や、地区を代表する方の思いをまとめてお届けします。

松尾地区のご紹介

松尾地区は人口約450人で、村内では上椎葉地区に次いで2番目に人口の多い地区です。

椎葉村の東側に位置しており、お隣の諸塚村と隣接しています。国道327号線の改良やトンネル開通も進んだことで、日向・宮崎方面へのアクセスがよりスムーズになってきました。

また、大いちょう展望台から望める「仙人の棚田」は“椎葉のマチュピチュ”とも呼ばれ、椎葉村随一の観光スポットです。その圧巻の景色をひと目見ようと遠方から訪れる人も少なくありません。

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そして、「松尾の大いちょう」も見所の一つ。秋には美しい色づきを見せ、堂々たる存在感を放ちます。

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「松尾に住んでよかった。」すべてはその思いために

松尾地区についてお話を伺ったのは、椎葉治敏はるとしさんと、中竹直人さんのお二人。

松尾の公民館長歴10年という治敏さんは、長年に渡って松尾地区の改革に力を入れている人物の一人です。

治敏さん:「前回の総合計画策定の時は、松尾中学校の閉校や跡地利用問題があって、住民アンケートを取りながら計画を進めました。そうして完成した『大いちょうふれあいセンター』には、当時村内で初めての集落支援員を迎えて、高齢者の送迎など日々地区住民のために働いてもらっています」

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松尾地区の保育所と小学校は今もありますが、中学校は2013年に閉校しました。それ以降、中学生の子どもたちは椎葉村の中心部にある椎葉中学校に通学しています。

その旧松尾中学校跡地を利用して建てられた「大いちょうふれあいセンター」には、学校の名残を感じる体育館とグラウンドも併設。地区の夏まつりを始めとするイベントごとはもちろん、地元のお年寄りがゲートボールを楽しむ姿もよく見られ、住民の交流の場として幅広く活用されています。

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また、平日には役場所属の集落支援員が常駐し、高齢者の送迎や、公民館の活動支援などを行っています。

治敏さん:「ほかにも、以前から着目していたのは高齢者向けの配食サービスの必要性です。これまでも手立てを模索してきた流れがあったので、今回の地区みらい会議で改めて住民で話し合う機会を持てたことはとても良かった。その結果をプロジェクトへ落とし込んで、さらに前進していきたいです」

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今回の会議で立ち上がったそのプロジェクトの内容がこちらです。

<プロジェクト1> 松尾を配食のモデル地区に!運営体制の整備
2015年の地区計画で高齢者向けの配食事業を検討し、2020年から地域おこし協力隊を導入して松尾地区内での配食サービスの実施を始めた。
地区独自の配食を600円で提供しているが、配食として高頻度で利用するには値段が高く、一方で事業者の経営面を考えると安価での提供も難しい。
安定的に配食を提供できる体制づくりのため、次のことに取り組んでいきたい。
1.配送方法や価格低減の工夫
2.行政との連携による負担軽減

行政が提供する配食サービスの対象者は審査によって決められており、審査では対象者として該当しないが実際は食事の用意ができず困っている地域住民がいる。高齢化により食事のサポートが必要な人はこれからますます増えていくため、地区として食の安定を図っていきたい。

<プロジェクト2> 伝統芸能の継承プロジェクト
前回の地区計画で神楽の継承について協議を行い、平成29年から松尾地区青年会が地区内3団体の神楽を継承し始めた。引き続き、神楽の継承のために次の取り組みを進めていきたい。
1.子ども神楽の立ち上げ
 神楽の活動を活発にして、継承につなげるため。
2.神楽の体制づくり
 保存会同士の連携などにより、安定的に神楽ができるようにしたい。

<プロジェクト3> 手をつなごう!みんな仲良しプロジェクト
保護者以外でも小学校と関われる場づくりとして、松尾小学校の放課後子ども教室を活かした地域との交流(老人会のグランドゴルフを一緒にする等)を行う。
子どもから保護者、じいちゃんばあちゃんまで交流を広げることで、「子どもは松尾で育てる」地域づくりをしていきたい。

公民館長として、長年に渡って地域の立役者となり力を尽くしてきた治敏さん。最後に、その胸の奥底にある一番の思いを語ってくれました。

治敏さん:「私の目標は、高齢になった人たちに『松尾に住んで良かった』と思ってもらえる地域づくりをすることです。それに向けて、私たちがどう動いていくかが難しいところ。でも、今行動を起こさなければ、あと数年後には困る人がさらに増えてくるはず。そうなってからでは遅いからこそ、今しっかりと皆で地区の将来を考えて、行政や色々な組織とうまく関連を取りながらプロジェクトへ取り組んでいきたいと思っています」

長い目で先を見越して計画を練り積み上げてきたからこそ、これまでの成果が形となって住民の元へ届く日は、そう遠くないかもしれません。

一度は途絶えた神楽を復活。「大変」でも残したいもの

もうひと方、中竹直人さんは、松尾地区の神楽保存会長を務めています。

松尾地区には現在、栗ノ尾、水越、こばの3つの神楽保存会がありますが、その中でも大きな問題となっているのはやはり「継承者不足」という点です。

直人さん:「私自身、椎葉村に帰ってきた20歳頃から神楽を舞い始めました。元は父親が神楽保存会の代表を務めていたのでその後を引き継いだので、実家にはそれにまつわる書き物も色々残っています。継承していくのは大変ですが、祖父や父から代々受け継いできたものを自分も後世に残していかなきゃいかんという思いはありますね」

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若い人手が減っていくと、神楽の練習や準備にかかる個人への負担も大きくなり、自ずと実施自体が難しくなっていきます。そういった経緯で、一つ、また一つと神楽を舞う集落が減っていきました。

そんな状況に危機感を感じ、松尾神楽保存会は平成29年から大いちょうふれあいセンターで神楽祭りの開催を始めました。

直人さん:一時は途絶えていた集落の神楽を27年ぶりに復活させて、松尾青年会の若手の面々が各集落に数名ずつ出向いて、神楽を習い始めました。そんな活動も、ここ2年間はコロナ禍で思うように実施できないのは歯がゆい思いです」

若い世代が学ぶ機会を無くさない。
無くなっているのであれば、もう一度作る。

そういった地道で骨の折れることにも、神楽保存会だけでなく、地元の青年会も一緒になって立ち上がることができたのはなぜなのか。

それは大変さも含めて、継承すべき、復活させるべき意義と価値が確かにあると、地区の誰もが感じていたからではないでしょうか。

直人さん:「今回のプロジェクトで、松尾地区の子ども神楽を立ち上げる話が出ています。子ども達にも伝統芸能を伝えていくことはもちろん、子どもも一緒になって巻き込むことでさらに地域の活気も出てきます。そうしてお披露目の機会も増えると、自ずと大人のモチベーションアップにもつながるんじゃないかな」

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私たちの周りには、個人においても、地域の中でも、様々な課題や問題が転がっています。その原因の多くは、時の流れとともに「当たり前」の形が移ろっていくからなのかもしれません。

その中で、変えていくべきものと、変えたくないものを私たち自身が選ばなければならない場面が訪れた時、必要なものはきっと「意志」の力の強さではないでしょうか。

「意志」こそがスタートであり、ゴール。

今回お話を伺ったお二人には、そんなことを教えていただいた気がします。


中川note_ライター


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