新しい「当たり前」をつくっていく。未来を変えるのは「今やらねば」という意志の力
松尾地区のご紹介
松尾地区は人口約450人で、村内では上椎葉地区に次いで2番目に人口の多い地区です。
椎葉村の東側に位置しており、お隣の諸塚村と隣接しています。国道327号線の改良やトンネル開通も進んだことで、日向・宮崎方面へのアクセスがよりスムーズになってきました。
また、大いちょう展望台から望める「仙人の棚田」は“椎葉のマチュピチュ”とも呼ばれ、椎葉村随一の観光スポットです。その圧巻の景色をひと目見ようと遠方から訪れる人も少なくありません。
そして、「松尾の大いちょう」も見所の一つ。秋には美しい色づきを見せ、堂々たる存在感を放ちます。
「松尾に住んでよかった。」すべてはその思いために
松尾地区についてお話を伺ったのは、椎葉治敏さんと、中竹直人さんのお二人。
松尾の公民館長歴10年という治敏さんは、長年に渡って松尾地区の改革に力を入れている人物の一人です。
治敏さん:「前回の総合計画策定の時は、松尾中学校の閉校や跡地利用問題があって、住民アンケートを取りながら計画を進めました。そうして完成した『大いちょうふれあいセンター』には、当時村内で初めての集落支援員を迎えて、高齢者の送迎など日々地区住民のために働いてもらっています」
松尾地区の保育所と小学校は今もありますが、中学校は2013年に閉校しました。それ以降、中学生の子どもたちは椎葉村の中心部にある椎葉中学校に通学しています。
その旧松尾中学校跡地を利用して建てられた「大いちょうふれあいセンター」には、学校の名残を感じる体育館とグラウンドも併設。地区の夏まつりを始めとするイベントごとはもちろん、地元のお年寄りがゲートボールを楽しむ姿もよく見られ、住民の交流の場として幅広く活用されています。
また、平日には役場所属の集落支援員が常駐し、高齢者の送迎や、公民館の活動支援などを行っています。
治敏さん:「ほかにも、以前から着目していたのは高齢者向けの配食サービスの必要性です。これまでも手立てを模索してきた流れがあったので、今回の地区みらい会議で改めて住民で話し合う機会を持てたことはとても良かった。その結果をプロジェクトへ落とし込んで、さらに前進していきたいです」
今回の会議で立ち上がったそのプロジェクトの内容がこちらです。
公民館長として、長年に渡って地域の立役者となり力を尽くしてきた治敏さん。最後に、その胸の奥底にある一番の思いを語ってくれました。
治敏さん:「私の目標は、高齢になった人たちに『松尾に住んで良かった』と思ってもらえる地域づくりをすることです。それに向けて、私たちがどう動いていくかが難しいところ。でも、今行動を起こさなければ、あと数年後には困る人がさらに増えてくるはず。そうなってからでは遅いからこそ、今しっかりと皆で地区の将来を考えて、行政や色々な組織とうまく関連を取りながらプロジェクトへ取り組んでいきたいと思っています」
長い目で先を見越して計画を練り積み上げてきたからこそ、これまでの成果が形となって住民の元へ届く日は、そう遠くないかもしれません。
一度は途絶えた神楽を復活。「大変」でも残したいもの
もうひと方、中竹直人さんは、松尾地区の神楽保存会長を務めています。
松尾地区には現在、栗ノ尾、水越、畑の3つの神楽保存会がありますが、その中でも大きな問題となっているのはやはり「継承者不足」という点です。
直人さん:「私自身、椎葉村に帰ってきた20歳頃から神楽を舞い始めました。元は父親が神楽保存会の代表を務めていたのでその後を引き継いだので、実家にはそれにまつわる書き物も色々残っています。継承していくのは大変ですが、祖父や父から代々受け継いできたものを自分も後世に残していかなきゃいかんという思いはありますね」
若い人手が減っていくと、神楽の練習や準備にかかる個人への負担も大きくなり、自ずと実施自体が難しくなっていきます。そういった経緯で、一つ、また一つと神楽を舞う集落が減っていきました。
そんな状況に危機感を感じ、松尾神楽保存会は平成29年から大いちょうふれあいセンターで神楽祭りの開催を始めました。
直人さん:「一時は途絶えていた集落の神楽を27年ぶりに復活させて、松尾青年会の若手の面々が各集落に数名ずつ出向いて、神楽を習い始めました。そんな活動も、ここ2年間はコロナ禍で思うように実施できないのは歯がゆい思いです」
若い世代が学ぶ機会を無くさない。
無くなっているのであれば、もう一度作る。
そういった地道で骨の折れることにも、神楽保存会だけでなく、地元の青年会も一緒になって立ち上がることができたのはなぜなのか。
それは大変さも含めて、継承すべき、復活させるべき意義と価値が確かにあると、地区の誰もが感じていたからではないでしょうか。
直人さん:「今回のプロジェクトで、松尾地区の子ども神楽を立ち上げる話が出ています。子ども達にも伝統芸能を伝えていくことはもちろん、子どもも一緒になって巻き込むことでさらに地域の活気も出てきます。そうしてお披露目の機会も増えると、自ずと大人のモチベーションアップにもつながるんじゃないかな」
私たちの周りには、個人においても、地域の中でも、様々な課題や問題が転がっています。その原因の多くは、時の流れとともに「当たり前」の形が移ろっていくからなのかもしれません。
その中で、変えていくべきものと、変えたくないものを私たち自身が選ばなければならない場面が訪れた時、必要なものはきっと「意志」の力の強さではないでしょうか。
「意志」こそがスタートであり、ゴール。
今回お話を伺ったお二人には、そんなことを教えていただいた気がします。