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【協力隊活動日記】インタープリター研修

 椎葉村では、昨年8月に以下の募集を行いました。

【YAMAP×椎葉村】求ム、YAMAPひげ隊長の弟子。秘境のインタープリター募集!|
世界に一つだけの椎葉 椎葉村公式note

 そうして今年2月にやってきたインタープリターが山之内裕信さんです。

扇山山頂にて

 今回は、5/24(水),25(木),26(金)にYAMAPと椎葉村とで開催した3日間のインタープリター研修に参加してきましたので、その様子をレポートします。

インタープリターとは?

 直訳すると「通訳者」。といっても、秘境のインタープリターは言語の通訳をするわけではありません。秘境のインタープリターが通訳するのは、地域の動植物や自然環境が発するメッセージです。一般の人だけでは気づくことができない地域の魅力を人々に伝える仕事、それが秘境のインタープリター。一言でいうと「地球の通訳者」です。
 
 それでは、「地球の通訳者」になるためのインタープリター研修では何をするの?と思われた方も多いはず。具体的に何をしたのか、3日間かけて行われた研修をご紹介します。

研修1日目

 1日目は座学でインタープリターに必要な心構えを学びました。ただ、一口に「座学」と言っても、ひげ隊長が行ったのはただの座学ではありませんでした。

自己紹介

 まず行われたのは自己紹介。ここで「普通じゃん」と思われた方、ちょっとばかりお待ちください。なんと一人20分の時間が与えられたのです。自己紹介で20分。筆者はこれまでの人生で自分をそんなに紹介したことがありません。
 
 ひげ隊長が言うには、これまでの人生を語ることで、自分は何がしたいのか、何が強みなのか、何をツアーに活かせるのかを知ることが目的とのことでした。

ひげ隊長の人生も語っていただきました

 そこで必死に考えました。出身地、学歴、職歴、椎葉に来た理由、話せるだけ話して時計を見たらまだ10分。ひげ隊長から「まだ逃がさない」と言われました。筆者は椎葉村に移住者を増やすことをミッションとしている地域おこし協力隊員ですが、「具体的に何をして移住者を増やしていくのか」と、毎日考えていて、まだ答えが出せていないことをズバリと聞かれてしまいました。
 
 他の参加者の皆さんにも一緒に考えていただいたのですが、この場ではまだ答えを出すことはできませんでした。

仮ツアー計画

 自己紹介が終わった後は、「ツアー名」、「時間」、「料金」、「対象」を決める仮ツアー計画をしました。
 
 結果は以下の写真のようになりました。

座学参加者の仮ツアー計画です

 みなさん、ビビッときたものはあったでしょうか?
 
 筆者以外の参加者は自己紹介の時点で、なんとなくやりたいことや得意なことが見えてきており、スムーズに仮ツアー計画が決まりました。
 
 一方筆者は、自己紹介の段階で今後具体的に何をしていけばいいのか、自分の強みは何か、なかなか見えていなかったため、本当に困りました。ここ1年で最も困ったかもしれないくらい困りました。
 
 そしてひねり出したのが、「柳田國男ツアー」。筆者は映画やアニメが好きで、それに伴う聖地巡礼を椎葉でも出来ないか、常々考えています。そこで、椎葉にゆかりのある著名人である柳田國男の足跡を辿れれば面白そうだと思ったのです。

 とはいえ、まだ著作である『後狩詞記』も読んでいません。従って、椎葉村のどこが柳田國男のゆかりの地なのかも分かっていません。「これは大変なことを言ってしまったぞ」と、発言してすぐ実感しました。

インタープリターの心得

 筆者の高難度ツアーは一旦置いておいて、座学の続きです。
 
 まず、「アウトドアとはカルチャーである」ということを教わりました。
 
 「アウトドア」と聞くと、キャンプや釣りなどの具体的な「レジャー」を想起するかもしれません。しかし、ひげ隊長曰く、アウトドア先進国の国々では「カルチャー(文化)」にまで昇華しているとのことでした。
 
 例えば、キャンプ等で焚火をする際、皆さんは炭をどこで調達されますか?
 
 筆者もそうですが、ホームセンターで売っている安いものを買われる方が多いのではないでしょうか。
 
 実はその安い炭は、多くが東南アジア産のものであるらしいのです。日本の森林率は約70%で世界有数の森林大国であるにも関わらず、発展途上国と呼ばれる国々の森林を伐採しており、自国の木材を使用していないことに、ひげ隊長は憤っていました。

 ひげ隊長曰く、「アウトドアで楽しませるだけの時代は終わった。これからは自然の悲鳴を伝えることも必要である」とのことでした。
 
 そのためには、インタープリター自身が自然を敬う心構えを持ち、上記の炭の例はもちろん、装備などについてもしっかり環境への影響を考えなければいけないということを教わりました。

研修2日目

 2日目は、前回の講習受講生であるミミスマスの上野諒さんによるツアーと、椎葉村地域おこし協力隊OGである池田文さんと現役協力隊員の金子さんによるツアーがありました。順にご紹介します。

山茶と里の暮らしツアー

 上野さんのツアーはe-bikeでお茶ができるまでの工程を巡るというものでした。しかし、e-bikeはまだ3台しかないため、案内する上野さんと参加者2名がe-bikeに乗り、他参加者は車でツアースポットに先回りするという方法をとりました。ちなみに、ひげ隊長はバイクでe-bikeの後ろをついていきました。

上野さんが「止まるよ」のハンドサインを出しています
後ろのバイクがひげ隊長です

 まず平家本陣を出発し、鹿野遊方面に向かいました。3km強走ったところに十根川を渡る吊り橋があり、そこを渡りました。

吊り橋でしか行けない集落に行きます

 少し歩くと、山の茂みの中に茶の木があるのが見えました。上野さん曰く、山に自生している茶の木を近くの住民が移植したとのこと。つまり厳密に言うと野生の山茶ではないのですが、それでもなかなかのワイルドさを感じました。

お茶の木は左上です
分かりますでしょうか

 茶の木を見た後は、おいしいお茶を入れるためのおいしい水の採取に向かいます。鹿野遊トンネルを北に抜けたところにある山肌を、山水がザーザーと流れています。この水を採取しました。

山肌を流れる水をワイルドに採取します

 お茶を入れるための素材が揃ったところで、十根川集落に向かいました。集落入り口の駐車場にe-bikeを止め、フットパスを歩きます。裏鳥居をくぐり少し歩くと、神社の横手に出ます。神社からは十根川集落が一望でき、椎葉型住宅や自然林と人工林についての説明を受けました。

 神社に参拝し、樹齢800年と言われている杉の木を眺めた後は、集落内にあるフットパスを上り、集会所に行きました。今年ミミスマスで摘んだ茶葉を水で出したものを、集会所の縁側に座って飲みました。十根川集落の景色を見下ろしながら飲む新茶は絶品でした。

十根川集落の高台から十根川神社を見下ろす景色です

 以上が、午前中のツアーの内容でした。椎葉の山茶ができるまでと、平家の伝説や椎葉の暮らしの歴史を織り交ぜながらのガイドを受け、椎葉に対する理解が深まったツアーでした。

しいばのやまがっこう

 午後の池田さん、金子さんのツアーは親子が対象のものでした。モニターとして参加された親子は一組でしたので、一部の他参加者が子どもの役をしました。

 まず、Katerieの会議室でツアーの説明と準備運動を行いました。このツアーは子どもの身体能力を伸ばすためのもので、様々な種類の動きを実際に行ってもらうためにプログラムを組んでいるとのことでした。準備運動も子どもが楽しみながら行えるよう工夫してありました。

大人になると意外と地面に届かなくなりますよね

 準備運動がすんだら、Katerieのそばにある小高い山(通称:ひらっち)へ移動しました。

親子という設定で隊列を組んで登ります

 ひらっちではまず、落ちているものや木などを使ってアスレチック遊びをしました。モニター参加者のお子さんが一番食いついたのは、ツタを使った縄跳びでした。それも、飛ぶ方じゃなくて回す方。子どもとは不思議なものですね。

ツタをくぐる遊びがいつの間にか縄跳びになっていました

 アスレチック遊びの後は、ワニ役と人間に分かれての鬼ごっこ。木の上に乗っている間は10秒間捕まらないというルールもあって、大人でもなかなか楽しめます。

 次は、サイコロを振って出た目に応じた課題をクリアする遊びをしました。例えば4の目が出たら、4つの違うものを拾って来ようというようなものです。植物学者の参加者は、4種類の異なる葉っぱを拾って来るなど、参加者の個性が光る遊びでした。

参加者によって持ってくるものが様々でした

 最後に「森の美術館」という、白い厚紙の枠を使って、自然の風景を自分なりに切り取ろうという遊びをしました。参加者のお子さんは、木の幹の表面がツルツルとザラザラしている境目を切り取っていました。

なぜここを切り取ったのか説明するお子さん

 ひらっちでの遊びが終了したら、再びKaterieに戻り、今日の遊びを通じてどういう動きがあったのか、どんな楽しさがあったのかを振り返りました。子の振り返りがあることによって、親御さんのプログラムへの納得感が得られるように感じました。

フィードバック

 2つのツアーが終了したら、いよいよ参加者からのフィードバックの時間です。各参加者が思いつく限りの改善点を挙げていきます。

ツアーを実施した上野さんと池田さん、金子さんは緊張の面持ちです

 まず上野さんの「山茶と里の暮らしツアー」の振り返りです。

 筆者は上野さんのツアーに対して、すごく内容が盛りだくさんだと感じました。しかしそれは、テーマを絞り切れていないことからくる統一感の無さということにもつながっているとの指摘が入りました。つまり、歴史要素も椎葉の暮らし要素も盛り込もうとするあまり、行程との不整合な点が多く出たとのことでした。

 ひげ隊長の場合は、歴史と暮らしとで2つのツアーに分けるとのことでした。すると、同じコースを走っても全く見える景色が違ってくるそうです。

 最後にひげ隊長から出た点数は、100点満点で、45点。なかなか厳しい評価です。次回までにテーマを絞って作りこみを行うことを命ぜられていました。

 次に、池田さんと金子さんによる「しいばのやまがっこう」の振り返りです。

 こちらのツアーに対しては、根本的なダメ出しはなく、複数の改善点が提案されました。例えば、サイコロ遊びで持ってきた葉っぱなどの名前を解説するなどして学び要素を取り入れたり、太い木の幹を参加者同士で手をつないで囲むなどして子供同士の交流が生まれるようにしたりする、などが挙げられました。

 以上の振り返りを通して、上野さんは再チャレンジ、池田さんたちは次回研修日程とは別に、特別にひげ隊長が見てくれることになりました。

研修3日目

 3日目は筆者はツアーに参加していないので、実際にツアーをつくった秘境のインタープリター山之内さんに概要を紹介してもらいます。

扇山ツアー

 皆様こんにちは山之内です。皆様は山といったら何を思い浮かべるでしょうか?それは人それぞれです。富士山、剣岳、雷鳥、高原植物、雪渓等々。   椎葉村ではシャクナゲやヤマシャクヤクなど、美しい花を見る登山ツアーがよく実施されており、人気を博しております。
 
 そういった華々しい登山のイメージとは、私の実施したツアーは対極にあるかもしれません。私のツアーでは脇役にスポットライトを当てたツアーなのです。苔、土、岩、菌類、落ち葉、、、など非常に地味です。
 
 「え、何かジミ~。。綺麗なもので癒されたいのに~」と思ったアナタ、映画やドラマで心惹かれた脇役はいませんか?ニヒルに主人公を支えるガンマン、冒険者にヒントを与える長老、心から憎らしい恋敵役などなど。

 華やかな主人公の陰には、彼らのような個性豊かなバイプレイヤーズや裏方の努力がいつもあります。私は山も人も全く同じように考えました。
 
 自然の中の小さな存在があるからこそ、山のように大きな存在や綺麗な花を支えているのです。

 小さな自然を知って、好きになってもらい大切にしてほしい。

 そのメッセージを伝えるために、名脇役についてただ知識を伝達するだけではなく、名脇役たちに直接触れたりルーペで見たり音を聞いたりと、大小様々な仕掛けで自然を体験し楽しんでもらうプログラムを作成しました。

山の名バイプレイヤーズです

 以上がツアーのメインストーリーだとしたら、後半の下りではサイドストーリーも用意しました。椎葉村と山の暮らしです。

 せっかく秘境の地にきたのだから、どんな人たちが暮らしているのかを紹介したいと思いました。登りは学ぶ場で下りはリラックスする場。時にクイズを交えて参加者と楽しく話していきました。

ツアー中も談笑は必要です

 この日のために何冊も本を読んだり、知識を有する国の機関や大学の教授に話を伺ったり、扇山に何度も登ったりと自分なりの努力を重ねてきました。一貫したテーマがなかなか作れず悩んだ時間もありました。
 
 ツアー後には振り返り会議が行われ、耳の痛いコメントもいただきました。「ホスピタリティが不足している、安全管理がまだまだ甘い、ペースが少し早い等」

 自分に不足している部分を率直に指摘しあう時間は、私にとってはとても大切です。職場や家庭でも本当に問題を改善しなければいけない時には、率直さが必要だと思いますが、人間関係を気にしてつい遠慮をしてしまい
がち。お互いよりよいツアーを作りたいという目標が、信頼関係を支えています。

参加者も改善点を探しながら説明を聞きます

 そんな中、ひげ隊長にもらった判定はなんと80点!合格の判定をいただきました!!いままで仮免許の気分でしたが、今後胸を張ってひげ隊長の弟子「秘境のインタープリター」を名乗っていきたいと思います(隊長からは「調子に乗るなよ!!」と、暖かい戒めの言葉もいただきました笑)。

 残りの20点は人間性からくる魅力も大きくなってくるとのこと。つまり自分の人間性も見つめなおす必要がありそうです。インタープリターの職業としての魅力は非常に奥深いものを感じます。

合格記念に扇山ポーズ

 今後もよいツアーを作り、自然の大切さや椎葉の魅力を伝えることができるように、引き続き精進していきたいと思います。

次回研修に向けて

 今回で山之内さんはモニターツアーを卒業することができました。池田さんは次回は特別日程をひげ隊長に組んでもらい実施するとのことで、改めて次回研修の参加者とツアーは以下のようになります。

可能性しかないツアー

 どれもこれも可能性を感じるツアー名ですね。特に筆者の「柳田國男ツアー」は、可能性しかありません。何を隠そう、実態がまだ無いからです。

 研修終了後、筆者は椎葉村が誇る図書館「ぶん文Bun」のクリエイティブ司書である小宮山さんに選書していただき、ツアー計画の勉強を始めました。次回研修の7/26(水)、27(木)、28(金)までにツアーを練り上げます。。。


文責:
椎葉村地域おこし協力隊 
移住コーディネーター 日本で最も美しい村連合アンバサダー
森崎慎也

秘境のインタープリター
山之内裕信