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お茶でもひとつ

 大河内地区の中心部を見下ろす日当たりの良い斜面に、良く手入れされた段々畑や庭、梅の花がちらほら咲き、フキノトウがあちこちに芽を出しています。

 「ここだ、ここだ。あの時は小雪が舞っていて、畑の前で写真を撮ったけど、なんだか二人とも寒くって、ちょっと迷惑そうな表情をしていたなぁ。」などと思い出しながら、今はぽかぽかと暖かくなってきた庭から玄関先へ進んでいきました。

 椎葉司さん、君代さんご夫婦を訪ねたのは6年ぶり。君代かあさんは柚子胡椒作りの達人で、それは当時、椎葉を代表する物産品として人気を集めていましたから、それで取材に訪れたことがあったのです。

 6年ぶりの二人は玄関で椅子に腰掛け、地下足袋を履き、腕抜きをして、これから午後の一仕事を始めるための、準備万端整いました、というところでした。

「いくつになったんですか?」
いきなり、不躾ぶしつけな質問から。
「お父さんが92歳、私が88歳」
「えー!元気ですねー。それで、今から二人で野良仕事?」
「あはは、午前中は寒いから、ここで体を温めて、昼からちょこっと仕事をするとですよ。」
「なんの仕事?コマ打ちとか?」
「いやいや、椎茸はもうようせんです。鹿よけの網に、鹿が絡んで、引き倒してしもうた所の修繕よ。」

「でも、おたくが来たからもう一休み、茶でもひとつ。」

 君代かあさんは、干し柿と漬物と梅干しと、熱いお茶を出してくれました。
「白いのはカビじゃないからね。安心して食べなっせ。」

 おいしい、おいしい干し柿を3つも食べて、残りはおみやげにポケットに入れて、「あまり長居すると仕事の邪魔ですね」と。

 帰り際には、「今は人にあげる分だけを少ししか作らんとよ。」と言う憧れの柚子胡椒と、鮮やかな紅色の梅干しを1袋、持たせてくれたのでした。
「柚子は毎年、何ぼでも実るからね・・。」
そうですね。また来年も訪ねてみよう。今度は何かおみやげを持ってこないとね。


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