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尾向は、未来に残したい日本の原風景。

2021年度、椎葉村は第6次長期総合計画を策定しています。
この記事では、椎葉村全10地区ごとに行った「地区みらい会議」で話し合われた地区独自のプロジェクトの内容や、地区を代表する方の思いをまとめてお届けします。

尾向地区のご紹介

尾向おむかい地区は椎葉村の北西部に位置しています。人口は約430名で、椎葉村内では上椎葉地区、松尾地区に次いで3番目に人口の多い地区です。若者のUターン率が高いことも特徴です。

耳川源流域にあたり、美しく豊かな川では渓流釣りを楽しむことができます。また、山深い地域資源を生かした林業が盛んです。

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日本で唯一、尾向地区で現在まで継承されてきた焼畑は、古くから伝わる循環型農法で、高千穂郷・椎葉山地域が世界農業遺産に登録された大きな要因の一つでもあります。

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神楽や狩猟も盛んに行われ、椎葉村の中でも特に伝統文化が色濃く残る地域です。

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『日本人本来の在り方を体現する場所』という使命感

尾向地区についてのお話を伺ったのは、尾前おまえ賢了けんりょうさんと、尾前正樹まさきさんのお二人です。

地区の公民館長を務める賢了さんは、地域資源を事業にしたいという考えから、天然の湧水を使った飲料水や、古来のお茶の製法である薪の火で手炒りする釜炒り茶の製造販売を行っています。

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尾向地区の自然と伝統に敬意を払い、その恩恵を受けながら暮らしを営む賢了さんですが、若い頃は椎葉を離れて大阪などの都市部に住んでいました。そんな都会での生活は、賑やかさで満たされているようでいて、どこか虚しさや孤独を感じる瞬間も。足りない何かを求めて、一人バイクを飛ばして色々な田舎を巡ったそうです。

賢了さん:「(椎葉に)絶対帰りたくないと思って都会に出ました。でも20代後半になってきて、ふと『自分はどこに根を張り、人生を終えていきたいか』と考えたときに気付いたんです。『なんだ、帰ればいいんだ。最高な場所が自分にはあった』と。それからすぐ実家に『俺、帰るわ』と電話して」

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また、1995年の阪神淡路大震災を現地で経験したことも、椎葉へ帰るという賢了さんの意思を決定的なものにしました。

賢了さん:「あの震災の後は、見覚えのあるはずの場所も変わり果て、まるで戦後のような、とにかくこの世の光景ではないようでした。都会の危うさと、人間のもろさを感じました」

その時実感したのは、人の命も自然の一部として存在し、自然界の様々なものとうまくバランスをとって生きていくことが、これからも求められるのだということでした。

賢了さん:「椎葉には豊かな自然はもちろん、暮らしの営みの中で神に感謝して、伝統や文化を重んじて人々が支え合うといった日本の昔ながらの精神が今でも生活の中に息づいています。今では貴重ともいえるそんな暮らしや先人の知恵も、私たちが守らなければいつしか消え去っていくし、一度消えれば二度と戻らない。椎葉が『普通の田舎』になってしまう前の、今が分岐点だと感じています

椎葉村が「日本三大秘境」と呼ばれる所以ゆえんは、椎葉村がどこかによく似た「普通の田舎」になることなく、他では消え去ってしまったものたちを守り残せているからかもしれません。

賢了さん:尾向は、そんな古き良き日本人の本来の在り方を体現する場所だと思っています。その魅力を発信していくべき場所だという使命感を持って、プロジェクトを進めていきたいです」

そのような強い思いを胸に、これから取り組んでいく尾向地区のプロジェクトはこちらです。

<プロジェクト1> 渓谷祭りを活かした帰省プロジェクト
従来から地区で開催している渓谷祭りについて、これまでは朝は川で釣り、昼はプールで魚の掴み取り、夜はステージイベントを行なっている。今後はこれまで以上に交流を促すようなイベントを企画し実施する。また、PRについても力をいれていく。
渓谷祭りの実施日に帰省してきた人たちとのつながりをつくりたい。
<プロジェクト2> 尾向神楽魅力発信プロジェクト
村外からの見学者を増やすために情報発信を強化する。また、村外での
神楽公演を行政や観光協会と連携して受付け、実施していく。
様々な人の前で舞うことで、若手のモチベーションを高めたい。
<プロジェクト3> 楽しくわいわい!春夏秋冬尾向堪能ツアー
青年団(現役・OBOG)主催で毎年4回(春夏秋冬)、尾向地区の各所で、子供と若者を中心に自然等を活かしたイベント・ツアーを行い、皆で交流しながらわいわいする会を行う。
地域内で楽しみながら、UIターンのきっかけにもしたい。
【想定内容】
春・・・魚釣りや花見
夏・・・アウトドアや花火
秋・・・栗拾いや紅葉狩り
冬・・・お菓子作りや天体観測

「椎葉に帰る」と幼い頃から決めていた

もうひと方、尾前正樹さんは大学を卒業後すぐに椎葉へUターンした若手組の一人。幼い頃から「大人になったら椎葉に帰ってきて、地元の役に立ちたい」という思いがあったそうで、現在は椎葉村役場に勤務しています。

そんな正樹さんへ、まずは気になる質問をしてみました。
「尾向には他の地区より若者が帰ってくる理由って、何だと思いますか?」

正樹さん:
「僕も小さい頃から『大人になったら帰ってきて欲しい』と親が願っているのを感じていたし、親自身がそういう気持ちを強く持っていたり、子どもに伝えたりすることが尾向では多かったのかもしれませんね」

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子どもに対して「帰ってきて欲しい」という気持ちを伝えるのはどこか強要するようで気が引けるし、言いづらい。そんな声はよく耳にします。

しかし、子どもが成長して他の場所へ出て行った時、自分の生まれた土地に誇りを持っているかということは、自分のアイデンティティーでもあるかのように、とても重要な心の拠り所となる気がします。それがその先、自分の仕事や生き方を選択する上で必ず関わってくることだからです。

正樹さん:「大学に行って外の世界を見たことで、違う場所で経験を積むのもありだと思いました。僕の場合はすぐに椎葉に戻ってきたけど、他の場所を見たからこそ、地元の良さをより実感するということもあると思うから」

時代の流れと共に、どこで生きていくかは個人の選択である部分が大きくなってきました。それでも、地元の良さをどんどん子どもたちに伝えていくことは、その子自身の人生にとって、とても大切なことではないでしょうか。

魅力はある、あとはそれを伝えるだけ

正樹さんは地域での活動として、2021年に開館した尾向交流拠点施設iroriのインスタグラムを開設し、地区の出来事や人、自然の魅力を精力的に発信しています。

iroriインスタ

正樹さん:「観光などで尾向を訪れる人に向けてはもちろんですが、地元出身者に『今の尾向』を届けたいという思いから始めました。今まで地元を離れた人と繋がりを持てる手段が少なかったので、SNSを有効活用して尾向を身近に感じてもらいたいと思っています」

また、今回打ち出したプロジェクトの一つに、尾向青年会主催で春夏秋冬のイベントを企画するというものがあります。

正樹さん:「子どもや若い世代を中心に村内外から広く参加者を受け入れてカジュアルに交流できる場を作ることで、自分たち自身がもっとこの地で暮らすことを楽しみたい。そうすれば自ずと、地区の魅力に自信を持って発信していくことにつながると思っています。それが結果としてUIターンのきっかけになれば嬉しいです」

さらに、地域の情報発信をしていく中で、改めて気付いたことがあったんだとか。

正樹さん:「実際に発信していくと、尾向には魅力となる素材がたくさんあることに気付きました。ただ、それをまだまだ外に伝えられていない。そんな課題を、僕たち若い世代の新しい文化や行動力で補っていきたいですね」

自信を持てるものがある。あとは、どう伝えるか。誰に届けるか。
それが難しいところでもあり、新しい可能性を生み出せる部分でもあります。

これまで大切につむいできた伝統や文化を、次の時代へとつないでいくために。

尾向地区はその大きな使命を持って、進んでいきます。


中川note_ライター


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