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2021年の焼畑

2021年、世の中が目まぐるしく動きつつ、またある意味では麻痺してしまったかのように停滞していたその夏。
向山むかいやまの斜面では例年通り、煙の柱が空に立ち昇った。何百年、何千年、繰り返されてきた営み。
焼くことは山を生まれ変わらせること。古いようでいて常に新しい。
焼畑とは、そういうものなのだ。

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コロナ禍の中の焼畑、体験や手伝いの人は少ない。その昔、椎葉の広い範囲で焼畑が行われていた頃は、こうであったろうと思われる作業風景だ。

杉林だったコバは勢いよく燃え、白い灰と焦げて黒くなった切り株ばかりのモノクロの世界に変わる。

※コバは焼畑にされる範囲の土地のこと。

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午後、まだ燃え残った枝が時折、パチパチと音を立てる。地面の土はまだまだ熱い。
そこへ、椎葉在来種の大根『平家カブ』とソバの種をく。
地面の熱で、固い種の殻がはじけて芽出しがよくなるのだ。
蒔いた後から竹ほうきでさっと掃く。それだけ。

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秋にはソバの実が一粒万倍いちりゅうまんばい、実ることになる。そして、それは次の時代の種ともなるのだ。
椎葉勝さんの掌から熱い地面に落とされた種は、時代を超えて繋がれる命の種でもある。

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その勝さんに、しっかりと焼畑の種を繋いだクニ子おばあ。
自宅、民宿焼畑の庭から空に立ち昇る煙を眺めていた。  

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来年の3月で、98歳を迎える。作業は次の世代に譲ったものの、300種を超える植物を見分ける知識を、十分に受け継いだ者が居るかと言えば心もとない。

まだまだ達者でいて、伸ばせばすぐに手が届く身の周りにある、無限の知恵の種を繋いでもらわねばならない。

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